「インボイス制度」導入で、アニメ・演劇・漫画業界で廃業者が続出する【篁五郎】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「インボイス制度」導入で、アニメ・演劇・漫画業界で廃業者が続出する【篁五郎】

◆声優の4人に1人が廃業する!?

 

 現在日本で「声優」と呼ばれる人は、1万人以上存在しているが、今回のアンケート結果によると76%は声優としての年収が300万円以下だという。20~30代の若年層の年収は低く、半数以上が100万円以下で声優としての収入が低い人たちの方がレッスンなど比較的高額の経費を使う必要があるという現状を述べた。

 そこでインボイスが導入されると約27%、4人に1人が廃業するとアンケートに回答している。回答した多くは年収100万以下ということを見れば、若手が辞めていくというのは明白だ。

 「それだけインボイス制度が声優業界に大きな影響を与え、業界を衰退させてしまうからです。私たちはこれを政治の話だと捉えてはいません。私たちの身に降りかかる生活の話だと思っています」

 会見に参加した岡本麻弥さんはこう訴えた。そして声優が政治的な発言をするのはクライアント、ファン、事務所から嫌がられると明かした上で、これからも政治家へのロビー活動を続けていくと語った。

岡本麻弥さん

 

 岡本さんは、インボイス制度に反対する活動の中で、消費税の納税義務が免除されていることについて「ネコババ」とSNSで非難を浴びていることを明かした。こうした声に対し、岡本さんは「消費税は預かり金ではない」と司法が判断していることを根拠に挙げ、「誤解されている」と話した。

 その後、衆議院第二会館へ場所を移し、会見に参加したクリエイターも参加したインボイス問題検討・超党派議員連盟の設立総会が行われた。この議連は立憲民主党、共産党、国民民主党、れいわ新選組、社民党の議員によって結成され、インボイス制度の問題を国会へ提起し、中止若しくは制度の見直しを提案する国会議員の集まりだ。代理も含めて総勢55名(11月16日現在)が総会に参加した。

 総会では財務省と国税庁の官僚へヒアリングが行われ、エンタメ業界の当事者として「VOICTION」共同代表で声優の甲斐田裕子さんが声を上げた。

  「国にとって大事なものは、税収ではなく、この国に生きる1人1人であり、その人々が生み出す文化や付加価値だと思います」

  「税を納めたら生きていけないというのは本末転倒ではないですか」

  「成長産業だと期待されるクールジャパンを支える業界の裾野をインボイス制度はごっそり削ってしまうのです。裾野が削れれば、山は低くなり、海外に負け、日本の文化の未来は断ち切られてしまいます。作品の低下はじわじわやってきます 一度失われた文化は戻りません」

 甲斐田さんは時折涙声になりながら役人へ問いかけた。

甲斐田裕子さん

 

 しかし当事者の訴えに対して財務省と国税庁の態度は冷たいものだった。「目の前の税収増よりも成長した産業からの収益には目がないのか?」という問いに対しては実質ゼロ回答。周知広報に努めるとしか答えなかった。

 そしてインボイスは消費税が複数税率を導入している上で欠かせない制度だと答え、将来の成長による税収増は「別問題」だと切り捨てた。財務省の答弁に対して議員は怒りをにじませながら反論し、既にインボイス未登録者が受けた不利益について問いただすシーンが見られた。

 さらに質疑応答の最後に立憲民主党の古賀之士(ゆきひと)参議院議員から「当事者の皆さんが言っている「消費税の税率を下げる」や「インボイスの中止などを逆提案する」について答えてください」と声を上げた。この問いに対しても財務省は「消費税は社会保障の財源なので下げない」と断言。改めてインボイス中止はしないと明言した。

 現在インボイスの登録は、個人事業主含む約300万の事業者のうち約22万件だという。ところが、エンタメ業界のアンケート結果によればインボイスの話が取引先からあったかという質問では、どの業界も8割以上「まだ何もない」と答えており、制度周知の遅れも目立っている。

 アンケートでは「インボイス制度の導入について、あなたはどのようにお考えですか?」という設問があったが、9割近くが反対と回答。理由としては「インボイス制度の納税・事務負担は、業界全体に影響を及ぼすから」「若手ほど影響が大きく新規参入の弊害にもなり、業界全体が衰退する可能性があるため」といった声ばかり。

 俳優・声優らが所属する協同組合・日本俳優連合も会見の前日に、インボイス施行ストップを要望する声明を発表している。さらに自民党内からも「インボイス反対・延期」の声が出ているという。岸田内閣は、このままインボイス導入を押し切ってしまうのだろうか。

 

文:篁五郎

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篁五郎

たかむら ごろう

1973年神奈川県出身。小売業、販売業、サービス業と非正規で仕事を転々した後、フリーライターへ転身。西部邁の表現者塾ににて保守思想を学び、個人で勉強を続けている。現在、都内の医療法人と医療サイトをメインに芸能、スポーツ、プロレス、グルメ、マーケティングと雑多なジャンルで記事を執筆しつつ、鎌倉文学館館長・富岡幸一郎氏から文学者について話を聞く連載も手がけている。

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